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東京地方裁判所 昭和44年(行ウ)264号 判決 1973年11月14日

東京都葛飾区高砂四丁目二番二四の二〇一号

原告

プリマ株式会社

右代表者代表取締役

高橋貞次郎

右訴訟代理人弁護士

山本武一

右訴訟復代理人弁護士

村上昭夫

同都千代田区大手町一丁目三番二号

被告

東京国税局長

守屋九二夫

右指定代理人

伴義聖

柳沢正則

柴田定男

右指定代理人

泉類武夫

右当事者間の法人税更正処分等に対する審査請求裁決取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立て

一  原告

被告が昭和四四年一〇月二日付で原告に対してした別紙目録記載の行政処分に対する審査請求をいずれも却下する旨の裁決はこれを取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二主張

一  原告の請求原因

(一)  原告は、昭和四三年一〇月三一日被告に対し、別紙目録記載の行政処分(以下、本件原処分という。)につき審査請求をしたところ(以下、本件審査請求という。)被告は昭和四四年一〇月二日付で右審査請求は法定の期間経過後になされた不適法なものであるとしてこれを却下する旨の裁決をし、その裁決書謄本は同月八日原告に送付された(以下、本件裁決という。)

(二)  しかしながら、本件裁決は次に述べるとおり違法である。

(1) 本件原処分に対する異議申立てについての決定書謄本(以下、本件異議決定書謄本という。)は、その送達先を誤つて送達されている。

原告の本店の所在地はもと文京区本郷二丁目二八番一号であつたが、本件原処分に対する異議申立後に原告が本店の所在地を葛飾区高砂四丁目二番二四の二〇一号へ移転したため、右異議申立書が本郷税務署長から葛飾税務署長へ移送され、葛飾税務署長が右異議申立てに対する決定をすることになつた。

ところで、原告はいうまでもなく設立登記によつて法人格を付与された株式会社であつて、その住所は登記により公示されたその本店の所在地、すなわち葛飾区高砂四丁目二番二四の二〇一号にあるのであり、法人税の納税地も同所にあるのである。そして、税務署長が国税に関する法律にもとづき発する書類は、その送達を受けるべき者の住所または居所に送達されるべであるから、葛飾税務署長は本件異議決定書謄本を原告の住所である葛飾区高砂四丁目二番二四の二〇一号へ送達すべきであつた。しかるに、右署長は右謄本を原告の旧本店所在地である文京区本郷二丁目二八番一号へ送達してしまつたものである。

(2) 右(1)のような事情にあつたため、原告の代表者である高橋貞次郎は昭和四三年一〇月五日に本件異議決定書謄本を受領した。本件審査請求は同日の翌日から起算して一月以内である同月三一日になされたものであるから、法定の期間内になされたものであつて、適法である。したがつて、本件審査請求は法定の期間経過後になされたものであるから不適法であるとしてこれを却下した本件裁決は違法である。

(3) 仮にそうでないとしても、原告は本件審査請求を法定期間内にしたものと信じていたものであり、他方、東京国税局の協議団も本件原処分の課税内容についての実質審理に立ち入り、一年近くもこれを継続していたものである。しかるに、右協議団では昭和四四年夏ごろから態度を急変し、審査請求期間遵守の有無の形式的審理に切り替え、ついに、被告は本件裁決をなすに至つたものであつて、本件裁決は信義則に反し違法である。

(4) さらに、瑕疵ある行政行為の治癒とか無効の行政行為の転換といつた法理が認められるのと同様に、国民の公法行為の瑕疵の治癒という法理も認められるべきである。したがつて、仮に、本件審査請求が法定期間経過後になされたものとしても、その瑕疵は東京国税局の協議団が本件原処分の課税内容についての実質審理をしたことによつて治癒されたものと解すべく、本件裁決はこの点の判断を誤つたものであつて違法である。

(三)  よつて、本件裁決の取消しを求める。

二  請求原因に対する被告の答弁および主張

(一)  請求原因(一)の事実は認めるが、同(二)の主張は争う。もつとも、同(二)の(1)の事実のうち、原告の本店の所在地がもと文京区本郷二丁目二八番一号であり、その後葛飾区高砂四丁目二番二四の二〇一号へ移転されたこと、本件原処分に対する異議申立書が本郷税務署長から葛飾税務署長へ移送され、葛飾税務署長が右異議申立てに対する決定をすることになつたこと、本件異議決定書謄本が原告の旧本店所在地へ送達されたこと、同(二)の(3)および(4)の事実のうち、東京国税局の協議団が本件原処分の課税内容についての実質審理に立ち入つたことは認める。原告が本店の所在地を移転させたのは昭和四三年六月二〇日であり、その後の同月二九日付で本件原処分に対する異議申立書を提出したが、右移転の登記は同年七月三日になされたものである。

(二)(1)  国税に関する法律の規定にもとづいて税務署長が発する書類は、その送達を受けるべき者の住所または居所(事務所および事業所を含む。)に送達することになつている。ところで、株式会社においては、その住所は本店の所在地にあるものとされ、その本店の所在地は定款で定められるとともに登記しなければならないため、それは形式的に定められることになる(形式上の本店)。そして、このようにして定められた形式上の本店は、全営業を総括し、最高の指揮が行なわれる場所的中心としての実質的意味での本店(実質上の本店)と一致するのが本来の建前であるが、小規模会社においてはしばしば両者が乖離している場合があり、その場合に本店について法律上認められている効果を形式上の本店および実質上の本店のいずれについて認めるべきかは一律に決することはできず、それぞれの法規が本店につき一定の効果を認めている趣旨に立ち入つて決すべきものである。国税通則法一二条一項は書類を送達すべき場所をその送達を受けるべき者の住所(事務所または事業所を含む。)としているが、それは、会社については一般的には本店所在地に送達すれば受取人が了知しうべき状態におかれる蓋然性がきわめて高く、送達の効果もこの時に生ずることとしても受取人に不利益な扱いにはならないからであつて、この趣旨からみた場合、形式上の本店と実質上の本店とが明らかに乖離する場合には、実質上の本店が右一二条一項にいう住所にあたるのである。

(2)  これを本件についてみるに、原告は昭和四三年六月二〇日本店の所在地を文京区本郷二丁目二八番一号から葛飾区高砂四丁目二番二四の二〇一号へ移転し、同年七月三日その旨の登記手続をしたが、右移転の理由は、プリマモナーク株式会社という新会社を設立するにあたり商業登記法二七条に牴触することとなり設立登記ができないので、やむなく原告の本店を移転したというものであつた。

そして、右新本店の所在地は、都営住宅高砂アパート内の杉山儀三郎(原告代表者の知人で旅行斡施業者)の住居であり、原告の看板も掲示されておらず、原告の業務活動とはなんの関係もない場所であつた。

他方、右旧本店の所在地の事務所には、原告の商業帳簿やその他の書類の一切が保管され、原告の代表者高橋貞次郎も右事務所に在勤し、また、葛飾税務署長所属の係管が本件原処分に対する異議申立ての審理をするにあたつては原告の要請にもとづき右事務所において高橋貞次郎や税理士杉村明の立会いのもとにこれを行なつているのである。さらに、原告は本店所在地の移転登記手続をした後である昭和四三年七月一九日付で本郷税務署長に対し「御願い」と題する書面を提出しているが、その書面には原告の所在地として旧本店の所在地が表示されている。

したがつて、このような場合には、旧本店の所在地である文京区本郷二丁目二八番一号が原告の実質上の本店であり、国税通則法一二条一項にいう原告の住所にあたると解すべきである。

(3)  そこで、葛飾税務署長は昭和四三年九月二六日本件異議決定書謄本を簡易書留速達便にて文京区本郷二丁目二八番一号の原告あてに発送し、右郵便は同月二七日到達した。したがつて、原告は同日本件原処分に対する異議申立てについての決定の通知を受けたものというべく、国税通則法(ただし、昭和四五年法律第八号による改正前のもの)七九条三項により右決定の通知を受けた日の翌日から起算して一月以内である同年一〇月二七日までに本件審査請求をすべきであつた。しかるに、原告は本件審査請求を同月三一日になつてしたものであるから、不適法というべく、本件裁決は、本件審査請求が不適法であることを理由にこれを却下したものであるから、適法である。

(三)  仮に、国税通則法一二条一項にいう住所が会社の場合には形式上の本店所在地を意味するものであり、したがつて、本件異議決定書謄本を原告の実質上の本店所在地たる文京区本郷二丁目二八番一号へ送達したことが誤りであつたとしても、原告の代表者高橋貞次郎は昭和四三年九月二七日右謄本の内容を了知したものであるから、右送達の瑕疵はきわめて軽微であり、原告は同日右決定の通知を受けたものというべきである。

三  被告の主張に対する原告の反論

被告主張にかかる形式上の本店と実質上の本店とを分ける考え方は独自の見解であつて失当である。そもそも租税法上の住所は、納税義務者がその納税義務を履行し、権利を行使するための所轄税務署長を定める基準としてのきわめて重要な意義をもつものであるから、明確に定められるものでなければならない。したがつて、国税通則法一二条一項にいう住所は、株式会社にあつては、登記によつて公示された本店所在地を指すのであり、それは法人税法に定める納税地と一致するのである。もつとも、登記によつて公示された本店所在地が、当該法人の事業または資産の状況からみて、その法人の納税地として不適当であると認められる場合には、その納税地の所轄国税局長等において納税地の指定をすることができるようになつているのであるが(法人税法一八条)、右指定があるまでは登記によつて公示された本店所在地をもつて納税地、したがつて国税通則法一二条一項にいう住所として扱うべきである。さらに、原告の新本店の所在地たる葛飾区高砂四丁目二番二四の二〇一号は、実質的にも原告の本店としての機能を果たしていたのである。すなわち、同所に居住する杉山儀三郎は将来原告の清算人となる予定で月六〇、〇〇〇円の報酬を受領し、原告あての文書の収受はもとより、原告の清算準備の事務に従事していたものである。現に、(1)被告は昭和四三年八月二二日付で「微収の引受通知書」を、(2)本郷税務署長は同年七月三〇日付で「法人税の異議申立書の移送通知書」を、(3)葛飾税務署長は同年八月二日付で「住居所の変更に伴う管轄税務署の変更通知」を、昭和四四年一月二二日付で「法定調書の提出についてお願い」等をいずれも原告の新本店の所在地へ送達し、原告はこれを受領しているのである。なお、原告が昭和四三年七月一九日付で本郷税務署長へ提出した「お願い」と題する書面に原告の肩書地を文京区本郷二丁目二八番一号と表示したのは、右書面のあて先が本郷税務署長であつたことから、本店所在地移転前のゴム印を不用意に押捺したまでのことである。さらに、本件異議決定書謄本の送付通知書には原告の納税地が葛飾区高砂四丁目二番二四の二〇一号と記載され、あわせて文京区本郷二丁目二八番一号という一行が加筆されているが、右謄本自体には右のような通知先が記載されていない。このことから考えれば、右謄本はいつたん郵便局員によつて原告の新本店の所在地である葛飾区高砂四丁目二番二四の二〇一号へ持参されたが、杉山儀三郎が不在であつたこととその郵便物が書留郵便であつたためやむなく持ち帰られ、差出人である葛飾税務署長に返戻されたので、右謄本の送付通知書に通知先として文京区本郷二丁目二八番一号が加筆され、再度送達に付された疑いがきわめて濃厚である。いずれにしても、原告の代表者高橋貞次郎は昭和四三年一〇月五日にプリマモナーク株式会社の社員から右謄本の送達のあつたことを知らされ、これを受領したものであるから、本件審査請求は法定の期間内になされたものである。

四  原告の反論に対する被告の再反論

原告の新本店所在地である葛飾区高砂四丁目二番二四の二〇一号の都営住宅高砂アパートは鉄筋コンクリート造りの四階建ビルであるが、右ビルの各階に通ずる階段の一階入口付近には各部屋の番号を付した郵便受が設置してあり、当該ビル内の居住者等にあてられた郵便物は、書留郵便物等の特殊なものを除き、名あて人が右ビル内に実在しているかどうかに関係なく配達される仕組みとなつている。したがつて、被告や本郷税務署長や葛飾税務署長が原告にあてた郵便物の一部が右高砂アパート二階一号室の居住者である杉山儀三郎の手を経て原告に届けられていたとしても、ただそれだけの事実により同所が原告の住所すなわち本店の所在地としての機能を果たしていたとみることはできない。

第三立証

一  原告

甲第一ないし第四号証の各一、二、第五ないし第八号証、第九ないし第一三号証の各一、二および第一四号証を提出。

証人安藤幸子、同関口雄吉、同杉明、同杉山儀三郎、同金浜旌吾および同立石貞夫の各証言ならびに原告代表者尋問の結果を援用。

乙号各証の成立はいずれも認める。

二  被告

乙第一ないし第九号証、第一〇号証の一、二、第一一ないし第一三号証、第一四号証の一、二および第一五号証を提出。

証人松田俊雄の証言を援用。

甲第七号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立はいずれも認める。

理由

一  請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。そこで、本件裁決の適否について考えるに、まず、本件審査請求が法定期間経過後になされたものであるかどうかを検討する。

(一)  原告の本店所在地は、もと文京区本郷二丁目二八番一号であつたが、その後葛飾区高砂四丁目二番二四の二〇一号へ移転されたこと、本件原処分に対する異議申立書が本郷税務署長から葛飾税務署長へ移送され、葛飾税務署長が右異議申立てに対する決定をすることになつたことは当事者間に争いがなく、いずれも成立に争いがない甲第八号証、乙第一号証、同第七号証および同第一二号証に証人関口雄吉の証言および原告代表者尋問の結果を総合すれば、原告は合成じゆうたんの製造販売を営業目的とする株式会社であつたが、本件原処分にかかる法人税額が大きかつたため、休業するに至り、新しく原告代表者高橋貞次郎の長男である高橋一彦を代表者とするプリマモナーク株式会社を設立登記するにあたり、商業登記法二七条の関係から原告の本店所在地を昭和四三年六月二〇日葛飾区高砂四丁目二番二四の二〇一号へ移転し、同年七月三日その旨の登記手続をするに至つたこと、本件原処分に対する異議申立ては同年六月二九日になされたものであることが認められ、この認定を覆えすに足りる証拠はない。

(二)  成立に争いがない乙第三号証に証人安藤幸子、同関口雄吉、同杉村明、同杉山儀三郎および同松田俊雄の各証言ならびに原告代表者尋問の結果を総合すれば次の事実が認められ、この認定を覆えすに足りる証拠はない。

原告が新本店の所在地とした葛飾区高砂四丁目二番二四の二〇一号は都営住宅高砂アパートの二階一号室にあたり、原告代表者の知人であり、原告の税務顧問杉村明とは軍隊の同期である旅行斡施業者杉山儀三郎の住居であつた。そして、同所へ送付された原告あての郵便物は、杉山儀三郎から原告の税務顧問杉村明へ届けられることになつていた。他方、原告の営業はほとんどプリマモナーク株式会社へ譲渡され、原告の社員もすべてプリマモナーク株式会社へ移り、原告の旧本店所在地にあつた事務所もプリマモナーク株式会社でこれを使用するようになつたが、原告の帳簿書類等はいぜん右事務所で保管され、原告の代表者高橋貞次郎はほとんど毎日右事務所へ出勤していた。そして、原告の事務員で売掛台帳の管理や受付を担当していた安藤幸子は、単に社名が変更になつたという程度に考えていたし、本件原処分に対する異議申立書は原告からプリマモナーク株式会社へ移つた総務部長の関口雄吉がこれを本郷税務署へ持参したものであつた。右異議申立事件を担当するようになつた葛飾税務署長所属の係官松田俊雄が昭和四三年九月中旬ごろ調査のため原告の新本店の所在地である杉山儀三郎方を訪れたが、同人方が不在であつたため、原告の旧本店所在地の事務所へ電話で連絡したところ、右事務所へ来てほしいということたつたので同所へ赴き、二日にわたり原告代表者および税務顧問杉村明の立会いのもとに調査をした。

(三)  前記乙第七号証によれば、原告は昭和四三年七月一九日付で「御願い」と題する書面を本郷税務署長へ提出し、本店を葛飾区へ移転したので異議申立書を葛飾税務署長へ移送してほしい旨上申しているが、右書面には原告の住所として「東京都文京区本郷二-二八-一」というゴム印を押印していることが認められ、さらに、本件記録に綴られている原告提出の訴訟委任状には、原告の住所として「東京都文京区本郷弐-弐八」とペンで記載されていることが明らかである。

(四)  いずれも成立に争いがない甲第一ないし第四号証の各一、二、同第五号証、乙第一一号証に証人杉山儀三郎の証言および弁論の全趣旨を総合すれば、(1)本郷税務署長は昭和四三年七月三〇日付の法人税の異議申立書の移送通知書を、(2)葛飾税務署長は同年八月二日付で住居所の変更に伴なう管轄税務署の変更通知書および差押調書謄本を、(3)被告は同月二二日付で徴収の引受通知書を、(4)葛飾税務署長は昭和四四年一月二二日付で法定調書の提出依頼書をいずれも原告の新本店所在地へあてて郵送し、杉山儀三郎から杉村明の手を経て原告がこれらを受領したこと、他方、葛飾税務署の係官高橋正好は昭和四三年八月九日原告の旧本店所在地において差押調書謄本六通を原告の代表者高橋貞次郎へ交付送達したことが認められる。

(五)  いずれも成立に争いがない甲第九ないし第一三号証の各一、二、乙第二号証、同第四号証、同第六号証、同第八、九号証、同第一〇号証の一、二、同一三号証、同第一四号証の一、二、証人松田俊雄、同金浜旌吾、同立石貞夫、同安藤幸子の各証言、証人関口雄吉の証言(たたし、後記信用しない部分を除く。)に原告代表者尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められる。

葛飾税務署長は、原告の実態は旧本店所在地である文京区本郷二丁目二八番一号にあるとの判断のもとに、昭和四三年九月二六日本件異議決定書謄本を同所をあて先とする簡易書留郵便として葛飾郵便局に差し出すとともに、同日東京国税局長に対し原告の納税地を同所に指定することが適当である旨の進達書を提出した。右簡易書留速達郵便は、本郷郵便局所属の郵便配達員により同月二七日右あて先の文京区本郷二丁目二八番一号へ配達され、同所の事務所で安藤幸子(当時プリマモナーク株式会社の受付等担当の事務員であるが、同人自身は原告の社名がプリマモナーク株式会社に変つたという程度に考えていたものであることは前記認定のとおりである。)がこれを受領し、たたちに関口雄吉の手を経て原告の代表者高橋貞次郎へ報告された。他方、葛飾税務署長から原告の納税地指定の進達を受けた東京国税局長は、本郷税務署長の意見をも聴いたうえ、昭和四四年三月八日付で文京区本郷二丁目二八番一号を原告の納税地として指定するに至つた。

以上の事実が認められ、証人関口雄吉および同杉村明の各証言中右認定に反する部分ならびに成立に争いがない甲第一四号証中本件異議決定書謄本の受領日を昭和四三年一〇月五日と記載してある部分は前記各証拠に照らし信用できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

以上(一)ないし(五)の事実にもとづいて考えるに、国税通則法一二条一項は「国税に関する法律の規定に基づいて税務署長その他の行政機関の長又はその職員が発する書類は、郵便による送達又は交付送達により、その送達を受けるべき者の住所又は居所(事務所及び事業所を含む。以下同じ。)に送達する。たたし、その送達を受けるべき者に納税管理人があるときは、その住所又は居所に送達する。」と規定している。ところで、郵便による送達または交付送達のうちいずれの方法によるべきか、また、送達場所は住所、居所、事務所、事業所のいずれによるべきかについては、右条項の規定の上からは必らずしも明らかではないが、送達の目的は送達を受けるべき者をして当該送達にかかる書類をできるたけ確実に、かつ、できるたけ速く受領させるということにあるものと解されるから、送達の方法および場所をいずれにするかの選択にあたつても、右送達の目的の観点からこれを判断すべきである。株式会社にあつてはその住所は本店の所在地にあるものとされ、その本店の所在地は定款に記載されるとともに登記によつて公示されるが、通常その本店の所在地が当該株式会社の営業を統括する場所的中心としての位置を占めている場合が多いので、株式会社に対する書類は通常その住所、すなわち登記された本店の所在地へこれを送達すれば足りるといえるわけである。しかしながら、株式会社の登記された本店の所在地が当該株式会社の営業を統括する場所的中心としての位置を占めているとはいえず、他にこれを占めている事務所があるなど本店所在地よりもより確実に、かつ、より速く当該株式会社あての書類を受領しうる事務所等がある場合には、右事務所等へ送達することも適法かつ妥当であるといえる場合がありうるわけである。これを本件についてみるに、原告の新本店の所在地である葛飾区高砂四丁目二番二四の二〇一号は、都営住宅高砂アパート内の杉山儀三郎の住居であり、同所へ配達された原告あての郵便物は杉山儀三郎から原告へ届けられることになつていたとはいえ、同所が原告の営業を統括する場所的中心としての位置を占めていたとはとうていいえず、他方、旧本店所在地である文京区本郷二丁目二八番一号所在の事務所には原告の帳簿書類一切が保管され、原告の代表者高橋貞次郎もほとんど毎日右事務所へ出勤し、本件原処分に対する異議申立ての調査も原告からの要請で右事務所において行なわれており、さらに、原告が当裁判所へ提出した訴訟委任状にはその住所として「東京都文京区本郷弐-弐八」と記載されているなど客観的にみても、主観的にみても、右旧本店所在地の事務所は原告あての書類をより確実に、かつ、より速く受領しうる場所として適当であつたといわなければならない。したがつて、葛飾税務署長が本件異議決定書謄本を簡易書留速達郵便にして旧本店所在地である文京区本郷二丁目二八番一号へ送達したことは、国税通則法一二条一項に照らし適法であつたというべく、右簡易書留速達郵便が昭和四三年九月二七日旧本店所在地の事務所へ配達され、たたちに原告代表者がこれを了知したことは前記認定のとおりである。してみれば、国税通則法(たたし、昭和四五年法律第八号による改正前のもの)七九条三項により原告は同日の翌日から起算して一月以内である同年一〇月二七日までに本件審査請求をすべきであつたということになるところ、本件審査請求はその経過後である同月三一日になされているので、不適法といわなければならない。

二  ところで、原告は、本件裁決は信義則に反するとか本件審査請求の瑕疵は治癒された旨主張する。

本件審査請求にもとづき東京国税局の協議団が本件原処分の課税内容の実質審理に立ち入つたことは当事者間に争いがないが、右実質審理に立ち入り、その期間が仮に一年近く続いたとしても(もつとも、前記乙第一三号証および同第一四号証の一、二によれば、葛飾税務署長は昭和四四年六月一七日には本郷郵便局長に対し本件異議決定書謄本の送達年月日につき調査を依頼していることが認められるので、東京国税局の協議団においてもそのころ本件審査請求が法定期間内になされたものであるかどうかの調査をしていたものと推定され、したがつて、本件原処分の実質審理のみが一年近くも続いたわけではないが)、その後本件審査請求が不適法であることを理由にこれを却下することが信義則に反するとか、あるいは法定期間経過後になされたという本件審査請求の瑕疵が治癒されるものと解すべき根拠はない。とくに、前記甲第一四号証によれば、原告は本件審査請求書において本件異議決定書謄本の受領日を昭和四三年一〇月五日と記載していることが認められ、もしそれが真実であるとすれば本件審査請求は法定期間内になされたということになるから、東京国税局の協議団が本件原処分の実質審理に立ち入ることは自然の成行というべく、なんら非難に値するものではなく、むしろ同年九月二七日には右通知を受領していながら、これを同年一〇月五日であると記載した原告こそ非難されるべきである。

三  以上のとおりであるから、本件審査請求は法定期間経過後になされた不適法なものであるとしてこれを却下した本件裁決は適法であるというべく、これが違法であるとしてその取消しを求める原告の本訴請求は理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高津環 裁判官 上田豊三 裁判官 横山匡輝)

目録

本郷税務署長が原告に対し昭和四三年五月二九日付でした次の各行政処分

一 昭和三八年八月一日から昭和三九年七月三一日までの事業年度以降の法人税の青色申告書提出承認の取消処分

二 昭和三八年八月一日から昭和三九年七月三一日までの事業年度分法人税の更正処分および重加算税賦課決定処分

三 昭和三九年八月一日から昭和四〇年七月三一日までの事業年度分法人税の再更正処分および重加算税賦課決定処分

四 昭和四〇年八月一日から昭和四一年七月三一日までの事業年度分法人税の更正処分および重加算税賦課決定処分

五 昭和四一年八月一日から昭和四二年七月三一日までの事業年度分法人税の更正処分および重加算税賦課決定処分

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